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広島高等裁判所 平成4年(ネ)352号 判決

控訴人・附帯被控訴人(以下「控訴人」という)

サンテン交通株式会社

右代表者代表取締役

林孝介

右訴訟代理人弁護士

小柳正之

沖田哲義

右訴訟復代理人弁護士

清水弘彦

被控訴人・附帯被控訴人(以下「被控訴人」という)

亡田中照夫訴訟承継人

被控訴人

田中和子

外四七名

右被控訴人ら訴訟代理人弁護士

田川章次

臼井俊紀

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  本件附帯控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人は、別紙一覧表の一審原告氏名欄記載の各被控訴人(ただし、田中照夫及び岸本定雄を除く)に対し、同表金額欄記載の各金員及びこれに対する同表遅延損害金発生日欄記載の各年月日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  控訴人は、被控訴人田中和子に対し四〇万円、被控訴人米北明美及び被控訴人岩崎宏子に対し各二〇万円、並びにこれらに対する昭和五七年六月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  控訴人は、被控訴人岸本信子に対し四〇万円、被控訴人岸本勲及び被控訴人泉紀代美に対し各二〇万円、並びにこれらに対する昭和五七年六月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

4  被控訴人らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを一〇分し、その三を控訴人、その余を被控訴人らの負担とする。

四  この判決は、被控訴人ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

(本件控訴について)

1 原判決中控訴人の敗訴部分を取り消す。

2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

(本件附帯控訴について)

1 本件附帯控訴を棄却する。

2 附帯控訴費用は被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

(本件控訴について)

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

(本件附帯控訴について)

1 原判決を次のとおり変更する。

2 控訴人は、各被控訴人に対し、原判決添付原告一覧表(二)の請求金額欄記載の各金員(ただし、同表記載の田中照夫に代えて田中和子一五〇万円、米北明美七五万円、岩崎宏子七五万円、岸本定雄に代えて岸本信子一五〇万円、岸本勲七五万円、泉紀代美七五万円)及びこれに対する同表の遅延損害金発生日欄記載の各年月日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

4 仮執行の宣言

第二  当事者の主張及び証拠関係

当事者の主張は、当審で次のとおり付加したほか原判決事実摘示のとおりであり、証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

一  控訴人の主張

1  配車行為の適法性

原判決は、サンデン交通労働組合(第二組合。「サン労」と略称することがある)所属の運転手四三〇名中で新車を割り当てられたことがある者は一八〇名であるのに対し、被控訴人私鉄中国地方労働組合サンデン交通支部(「支部組合」ということがある)の運転手は昭和三九年以降まったく新車を割り当てられていないとして、いわゆる大量観察法に基づいて控訴人の配車行為を不法行為であると認定している。

しかし、個々具体的な配車行為が妥当であれば、一八〇対〇という数字は意味をもたないのであり、大量観察法はその根拠を欠く。

そして、昭和五四年一月から昭和六一年一月までの各年度の営業所ごとの配車の実態からして、次のとおりいうことができ、大量観察法は本件において妥当しない。

配車された新車は、貸切バスとワンマンバスとからなる。貸切バスは、バスガイドが支部組合員の運転手と一緒に働くのを嫌っているので、被控訴人ら運転手に配車することができなかった。これは、やむを得ない措置であり、運行管理上許容されるべき範囲のものである。ワンマンバスは、各営業所でばらつきがあるものの、一か月一台ないし六台の割合で配車されている。その配車を受けた運転手は、サン労所属の組合員であるが、サン労所属の組合員は他にも多数いるし、支部組合員も多数いる。一台ないし六台の新車を多くの運転手のうち誰に配車すれば、正当な配車行為となるのか。結局、当時の営業所長の判断にまかさざるを得ない性質のものである。右配車が明らかに不合理であるならばともかく、右配車の状況下では、裁量の範囲内といわざるを得ない。

被控訴人らが具体的な配車行為を違法と主張するならば、当該配車車両をどの特定支部組合員(その当時の当該営業所所属の支部組合員であり、かつ被控訴人である)に配車すべきであるかを主張・立証しなければならない。

2  消滅時効

(一) 亡田中昭夫ほか三八名は、昭和五七年五月二九日、本件訴えを提起した(山口地方裁判所下関支部昭和五七年(ワ)第一六六号事件)。

更に、被控訴人中島清一ほか七名は、昭和六一年七月九日、本件訴えを提起した(同庁昭和六一年(ワ)第一六九号事件)。

(二) 仮に、控訴人の配車行為が不法行為になるとしても、被控訴人らは、本件訴え提起の三年前から、すなわち、昭和五七年(ワ)第一六六号事件の被控訴人らは、昭和五四年四月以前から、昭和六一年(ワ)第一六九号事件の被控訴人らは、昭和五八年六月以前から、右不法行為による損害及び加害者を知っていたから、昭和五七年(ワ)第一六六号事件の被控訴人らについては昭和五四年四月以前に発生した損害賠償請求権が、昭和六一年(ワ)第一六九号事件の被控訴人らについては昭和五八年六月以前に発生した損害賠償請求権が時効により消滅した。

(三) 控訴人は、右消滅時効を援用する。

3  被控訴人ら主張3(一)(一審原告田中昭夫の死亡と相続)及び(二)(一審原告岸本定雄の死亡と相続)の事実は認める。

二  被控訴人らの主張

1  控訴人の主張1は争う。

控訴人の主張は、配車基準のうち重要な意義を有する勤務・経験年数をことさら無視して配車を論ずるものであり、不当である。また、控訴人自身、原審においては、被控訴人ら主張の配車状況を前提に配車基準の是非について主張し、被控訴人組合が合理化に反対して争議権を行使するので新車が配車できない旨主張・立証していたにもかかわらず、当審において、ワンマンバスのみの配車例を取り出し、新車のワンマンバスを支部組合員の誰に渡せば妥当な配車とみなすのか、結局営業所長の判断にまかさざるを得ないと主張している。しかし、本件は不法行為による損害賠償請求の訴えであるから、控訴人による被控訴人らの権利に対する侵害及びそれによる被控訴人らの損害発生の事実について判断すれば足りる。特定の年度の特定の新車を誰に配車すべきかを判断する必要はない。控訴人は、当審において、新たな土俵を設定し、手前勝手な議論をしているにすぎない。

貸切バスについては、昭和四八年まで勤務経験の長い被控訴人組合所属の運転手も乗車していた。ところが、昭和四八年に女性バスガイド六名が被控訴人組合に加入したことから、控訴人は、それ以後、被控訴人組合所属の運転手を貸切バスの乗務からはずしている。被控訴人組合所属運転手は、貸切バスへの乗務はもちろん女性バスガイドと接触する機会さえ与えられていないのであり、彼女らが被控訴人組合所属運転手との乗車を嫌っている事実はない。貸切バスを除いて配車問題を論ずる必要はない。

2  控訴人の主張2は争う。

3  一審原告の死亡と相続

(一) 一審原告田中昭夫は、平成三年九月二八日、死亡し、同人の妻被控訴人田中和子が相続分二分の一の割合で、長女被控訴人米北明美及び二女被控訴人岩崎宏子がそれぞれ相続分四分の一の割合で、一審原告田中照夫の権利義務を相続により承継した。

(二) 一審原告岸本定雄は、平成五年四月六日、死亡し、同人の妻被控訴人岸本信子が相続分二分の一の割合で、長男被控訴人岸本勲及び長女被控訴人泉紀代美がそれぞれ相続分四分の一の割合で、一審原告岸本定雄の権利義務を相続により承継した。

理由

一  原判決二五枚目表一行目から同三五枚目表四行目までを、次のとおり改めて引用する。

1  原判決三〇枚目裏九、一〇行目の「昭和四六年」を「昭和四七年」に改める。

2  原判決三一枚目表六、七行目掲記の証拠のうち「証人服部」を削り、「甲第四八号証、第五七号証、第七九ないし第一一六号証、第一二〇ないし第一二三号証、第一五一号証」を加える。

3  原判決三一枚目裏四行目の「傾向があること」の次に、「(被控訴人組合が一五名の運転手を調査した結果によれば、被控訴人組合所属の運転手の年間給与所得を基本給がほぼ等しい第二組合所属の運転手の年間所得と比較すると、昭和六〇年度において、被控訴人尾崎清登の場合約五五万円程度、被控訴人豊嶋信行の場合約四三万円程度、被控訴人雑賀矢の場合約五五万円程度、被控訴人小田正司の場合約八六万円程度低くなるなど、年間所得の一割前後、少ない者で年間約九万円程度の差が生じている)」を加える。

4  原判決三二枚目裏一一行目掲記の証拠に「甲第五〇号証、第六一ないし第六四号証、第七五、七六号証、第七九ないし第一一六号証、第一二〇ないし第一二三号証、第一四七号証の一、二、三の一、二、四の一ないし四、五の一ないし四、六の一ないし七、七、八の一、二、九、一〇の一ないし三、一一の一、二、第一四八号証の一ないし一六、第一五〇、第一五一号証、第一五五、第一五六号証、原審及び当審証人菊永庄太郎の証言、原審における一審原告田中昭夫本人、被控訴人豊嶋信行本人及び被控訴人組合代表者の各尋問の結果、並びに弁論の全趣旨」を加える。

5  原判決三四枚目裏六行目から同三五枚目表四行目までを次のとおり改める。

「(四) 具体的な配車の状況

(1)  昭和三八年初めから昭和六一年五月までの間に控訴人において購入した新車は少なくとも四四四台あったが、そのうち、被控訴人組合所属の運転手が同組合に所属中に配車された新車は、三台のみである(以上の事実は当事者間に争いがない。右三台は昭和三八年ころ配車されたものである)。残り四四一台は、第二組合所属の運転手に配車された。

(2)  右配車の実状は、ほぼ原判決添付営業所別配車一覧表記載のとおりである。

(3)  右一覧表によれば、第二組合の組合員に対しては、おおむね運転手の経験年数に応じて新車が割り当てられるのに比較して、被控訴人組合の組合員に対しては、第二組合の運転手であれば新車が配車されるのと同等の経験年数を有する者であっても、新車の配車がない。すなわち、被控訴人下村繁人、同空岡義夫、同尾崎清登、同岩目地泰孝、同豊嶋信行、亡岸本定雄、被控訴人山本馨、同中村柳治、同瀧村史郎、同池本喬治、同福井善光、亡田中昭夫、被控訴人紺藤義雄、同原田敏幸、同野村孝利、同木本万壽夫、同境百合人、同林文雄、同角谷茂也、同雑賀矢、同小田正司、同藤田龍雄こと藤田龍男、同加藤正、同鹿嶋正美、同阿曽健一、同松田一成、同土井慶一、同佐々木悟、同長岡和男(同人は、第二組合所属当時に二回新車を担当しているが、被控訴人組合に加入した昭和四七年以後は新車を割り当てられていない。同等の経験年数を有する第二組合所属の運転手は、昭和五〇年代にも新車を割り当てられている)、同田代淳、同中村進、同木下静雄及び同中野実については、本訴提起当時に同等の経験を有する各営業所の第二組合所属の運転手がほぼ二回以上新車を担当している(ただし、ごくわずかの例外はある)のに対し、新車の割り当てがないし、被控訴人千羽幸夫、同山本賢、同井上敬治、同田村健治、同中島清一、同豊島幸行、同峰永宏正、同袈裟丸實好、同山田昭治及び同奥村勝利(以上の運転手を「被控訴人ら運転手」ということがある)についても、本訴提起当時に同等の経験年数を有する各営業所の第二組合所属の運転手が一回以上新車を担当している(ただし、ごくわずかの例外はある)のに対し、一回も新車の割り当てがない。

(4)  右被控訴人ら運転手を含めた被控訴人組合所属運転手の運転手としての技量・能力が、第二組合所属の運転手と比較し全体として特に劣っている様子はない。

(5)  かえって、被控訴人ら運転手の中には、昭和三八、九年ころまでに新車の割り当てを受けていた者(被控訴人瀧村(昭和三九年ころ合併前の会社において配車を受けた)、非控訴人福井(昭和三八年に配車を受けた)、亡田中(組合分裂前に配車を受けた)、被控訴人松田(昭和三八年に配車を受けた)、被控訴人大下(昭和三八年に配車を受けた))や第二組合所属当時に新車の割り当てを受けた者(被控訴人長岡、被控訴人山本馨、被控訴人田代、被控訴人池本、被控訴人千羽)がいる。

(6)  他方、被控訴人組合から第二組合に戻って新車を受けた畑尾昭一、松山滋、藤川和人らがいる。

(7)  本件訴訟係属後も、被控訴人組合に所属する運転手には新車の割り当てがない状況が続いている。」

二  前項で認定した事実を前提に被控訴人らの請求の当否について検討する。

1  配車差別の不法行為性

控訴人が、被控訴人ら運転手に新車を割り当てなかった配車差別は、以下のとおり、民法七〇九条所定の不法行為に該当する、と認めるのが相当である。

(一)  控訴人会社では、バス車両について運転担当者を決める担当車制を採用しているところ、新車を担当することになるか否かは、運転のし易さ等に差異があり、肉体的及び精神的疲労の程度が違うこと、新車を担当すると貸切業務に従事する機会が多くなり、時間外手当等の収入が多くなること、このように担当車両の如何は、労働環境及び収入等の運転手の労働条件を規定する関係にあるため、運転手の間では、担当車両の善し悪しが当該運転手の技量、能力等の運転手としての人格的評価を示すものと意識されていること、したがって、運転手らは、担当車の決定、とくに新車の割り当てには重大な関心をもっていることが認められる。

(二)  控訴人会社における新車割り当ては、組合分裂前は、運転手の勤続年数、運転経験年数、運転技術、これまでの担当車歴、健康、勤務成績及び事故回数・内容などを総合考慮して決定されていたが、とくに勤続年数及び運転経験年数が大きな比重をしめていた(勤続年数が長くなり運転経験年数が一定の年数以上に達すると、特段の事情のない限り、新車を担当することができる、というのが運転手の共通の認識であった)こと、組合分裂後も、第二組合所属の運転手の間ではおおむね勤続年数・運転経験年数に従って新車が割り当てられていることが認められる。

(三)  ところが、組合分裂後は、被控訴人組合に所属する運転手には、分裂直後に三台の新車の割り当てがあったのみで、新車の割り当てがないこと、被控訴人ら運転手は、同じ営業所所属の運転経験のほぼ等しい第二組合所属の運転手に対して新車が割り当てられているのにもかかわらず、新車の割り当てを受けていないこと、被控訴人ら運転手を含めた被控訴人組合所属の運転手のバス運転手としての技量、能力が全体として第二組合所属の運転手より劣ってはいないことが認められる。

(四)  控訴人は、被控訴人組合との従前の労働紛争の経緯等からして、被控訴人組合の存在及びその活動を嫌悪していると認めることができる。

(五)  とすれば、被控訴人ら運転手が新車の割り当てを受けることができないのは、特段の合理的理由が認められない限り、控訴人会社が、被控訴人ら運転手を被控訴人組合の組合員であることの故に差別し、これによって被控訴人組合の内部に動揺を生じさせ、ひいては被控訴人組合の組織を弱体化させようとの意図の下に行ったものであり、労働組合法七条一号及び三号の不当労働行為を構成するものと推認すべきである。

控訴人が被控訴人ら運転手の新車の割り当てを受けることができない合理的理由として主張するところは、以下のとおり、いずれも認められない。

(1) 控訴人は、被控訴人組合は企業の合理化・生産性向上を目指す控訴人会社の施策に反対し、争議行為を継続するため、同組合に所属する組合員は日常の業務改善及び運営に対する協力度の点において評価が低くなる旨主張する。

しかし、控訴人会社の進める企業の合理化・生産性向上運動に反対する被控訴人組合の方針自体は抽象的なもので、個々具体的な日常の業務及び運営とは直接的な関連性は認め難いものであり、本件全証拠によっても、右方針に則った正当な争議行為の場合を除き、被控訴人らが第二組合所属の組合員と比較して控訴人会社の日常の業務改善及び運営に対し特に非協力であったとは認められない。そして、右方針に則った争議行為に参加したことの故をもって日常の業務改善及び運営に対する協力度が低いと評価することは、結局のところ、会社の方針に反対する争議行為に加わる者には不利益を課するということになるわけで、憲法の保障する争議権を否定するものとして許されないものといわなくてはならない。したがって、前記主張は、新車割り当ての差別を合理化する理由とは認められない。

(2) 控訴人は、被控訴人組合がワンマンバスの導入に反対していたから、ワンマンバスの新車割り当てができない旨主張する。

被控訴人組合は、ワンマンバスが導入された昭和三八年ころ、私鉄総連の方針に従いこれに反対していたが、昭和四〇年ころから、ワンマンバス導入を前提に労働条件の事前協議を求めるようになり、昭和四三年からは、条件付でワンマンバスの導入を認める旨の運動方針を採択し、ワンマンバス乗務を申し入れたが、控訴人会社は、これに応じなかったこと、控訴人会社においては、昭和五〇年ころには定期運行バスの約九〇パーセントがワンマンバスになり、昭和五一年から定期運行バスが全部ワンマンバスになったことが認められる(甲第三ないし第五号証、第二五号証の三、第三四号証、原審証人梅田、同菊永、当審証人前田)。

右のとおり、被控訴人組合は、当初ワンマンバスの導入に反対していたが、昭和四〇年ころから条件付ではあるがワンマンバスの導入を認めていたし、昭和五一年からは全面的にワンマンバスになり、被控訴人組合に所属する運転手もワンマンバスに乗務していると認められるから、被控訴人組合がワンマンバスの導入に反対したことをもって、少なくとも昭和五一年以降の被控訴人ら運転手に新車割り当てができない合理的理由とは認められない。

(3) 控訴人は、貸切バスについてバスガイドが被控訴人組合所属の運転手との乗務を嫌うので被控訴人ら運転手に貸切バスを配車できない旨主張し、当審証人前田は、右主張にそう証言をする。

しかし、右前田証言は、曖昧であり、当審証人菊永の証言に照らして、信用できない。かえって、甲第一四九号証の一ないし五、原審及び当審証人菊永の証言によれば、被控訴人組合所属の運転手が貸切バスの担当を外されるようになったのは、昭和四八年になってバスガイド六名が被控訴人組合に加入したことが契機となっているものとみられ、その真意は、バスガイドが被控訴人組合所属の運転手と接触することにより被控訴人組合に加入して行くことを防止するにあったとみられるところ、昭和五五年ころには貸切バスを担当する被控訴人組合所属の運転手はまったくいなくなり、バスガイドと接触する機会すらなくなったことが認められるから、右主張は認めることはできない。

(4) 乙第二一号証、第二六号証及び第三二号証には、被控訴人ら運転手には懲戒歴があり、勤務状況や接客態度等に問題がある旨の記載があり、原審証人梅田及び同梶山の証言中には、同趣旨の証言がみられる。

しかし、前記一で認定したとおり、被控訴人組合所属の運転手は、控訴人会社の進める種々の合理化政策に反対する被控訴人組合に所属していることの故をもって差別されていた、と認められるのであり、被控訴人ら運転手の個々の懲戒歴や勤務状況・接客態度等を考慮した上、被控訴人組合所属の運転手に対して新車を割り当てない旨決めていた、とは認められないから、運転手個々の条件を考慮して本件の配車差別の合理性を問題にすること自体失当といえる。

のみならず、被控訴人ら運転手の懲戒歴のうち、職場の秩序を乱した行為や所持品検査に関するものは、甲第三〇号証の一、二、第一二四号証、第一三〇号証の一、二によれば、組合活動等をめぐる紛争であって、被処分者・組合側にも言い分があり、右懲戒が正当であるか否かはにわかに判断できないものであり、右のような懲戒歴の主張がない運転手もいることからすれば、右懲戒歴があることをもって、被控訴人ら運転手に新車を担当させないことが合理的であるとは認められない。

また、交通事故に関する懲戒歴の存在や勤務状況及び接客態度等は、これと比較する第二組合所属の運転手の状況が明らかでないから、これをもって、被控訴人ら運転手に新車を割り当てないことが合理的である理由とすることはできない。

(5) 控訴人は、第二組合に所属し、かつバス運転手として一〇年以上の経験を有する者でも、新車の割り当てを受けたことがあるものは六〇パーセントにもみたない旨主張する。しかし、被控訴人組合に所属し、かつバス運転手として一〇年以上の経験を有する者で、新車の割り当てを受けたものは全くないのであり、同じ営業所に勤務し同程度の経験を有する者でありながら、ごく僅かの例外を除き、第二組合所属の運転手は新車の割り当てを受けているのに、被控訴人組合所属の運転手は新車の割り当てを受けていないことは、すでに認定したとおりであって、控訴人の右主張は失当である。

また、控訴人は、具体的配車行為が違法とするには、被控訴人らにおいて、当該車両をどの特定支部組合員に配車すべきかを主張・立証すべきである旨主張するが、独自の見解であり、採用できない。

(6) 以上検討したところによれば、被控訴人ら運転手に新車を割り当てなかった控訴人会社の行為は、労働組合法七条一号及び三号所定の不当労働行為に該当する違法行為であるから、控訴人は、民法七〇九条に基づき、右違法行為により被控訴人らに生じた損害を賠償する責任がある。

2  消滅時効

(一)  亡田中昭夫ほか三八名が昭和五七年五月二九日に本件訴え(原審・昭和五七年(ワ)第一六六号事件)を提起したこと(うち一名は原審で、二名は当審で訴え取り下げ)、被控訴人中島清一ほか七名が昭和六一年七月九日に本件訴え(原審・昭和六一年(ワ)第一六九号事件)を提起したことは、記録上明らかである。

(二)  ところで、被控訴人組合は、組合分裂後の昭和三八年ころから始った配車差別について、控訴人会社に対して、しばしばその是正を申し入れていたこと、昭和四五年七月には、山口地方労働委員会に対し、配車差別等を理由に不当労働行為の救済を求めていること、昭和四七年には、控訴人会社の関連会社である山陽急行バス株式会社において、私鉄中国地方労働組合山陽急行支部所属の組合員が、同組合から分裂した山陽急行バス労働組合の組合員に比べて、配車差別を受けているとの損害賠償請求を提起し、昭和五二年一月三一日に一審の山口地方裁判所下関支部で損害賠償を認める裁判を得、昭和五五年四月に広島高等裁判所において配車を公正にする等の和解をしていることが認められる(前記一で認定した事実及び甲第一号証、第三ないし第五号証、第一三号証、第一六ないし第二〇号証、第四六号証の一、二)。

とすれば、被控訴人ら運転手及び被控訴人組合は、昭和五四年四月以前から、控訴人会社が違法に配車差別を行っており、これにより被控訴人らに損害が生じていることを知っていた、と認めるのが相当である。

(三)  したがって、昭和五七年(ワ)第一六六号事件の原告である亡田中ほか三八名については、昭和五四年五月二九日までに生じた配車差別による損害賠償請求権は消滅時効により消滅し、昭和六一年(ワ)第一六九号事件の原告である被控訴人中島清一ほか七名については、昭和五八年七月九日までに生じた配車差別による損害賠償請求権は消滅時効により消滅した、と認めるのが相当である。

3  損害額

(一)  被控訴人ら運転手について

前記一で認定した配車差別によって生じた不利益、特に収入減を生じていること、配車差別は本訴提起当時も未だ止まっていないこと、配車差別の態様、運転手としての経験年数・勤続年数、その他本件記録にあらわれた諸般の事情を考慮すれば、前記一部時効消滅の点を考慮に入れても、原判決認定の慰謝料額はやや低きに失し、被控訴人ら運転手の慰謝料は、別紙一覧表記載のとおり、亡田中ほか二一名は八〇万円、被控訴人福井ほか一二名は六〇万円、被控訴人中島ほか七名は四〇万円と認めるのが相当である。

(二)  被控訴人組合について

すでに認定・説示した配車差別による支配介入により被控訴人組合に生じた被害、右被害の生じた期間及び本訴提起・追行のために要した費用等の諸般の事情を考慮すれば、被控訴人組合の慰謝料は五〇万円をもって相当と認める。

4  相続

(一)  一審原告田中の相続関係は、当事者間に争いがない。

とすれば、一審原告田中の取得した八〇万円の損害賠償請求権については、妻の被控訴人田中和子がその二分の一、子の被控訴人米北明美及び同岩崎宏子が各四分の一を相続することになる。

(二)  一審原告岸本の相続関係は、当事者に争いがない。

とすれば、一審原告岸本の取得した八〇万円の損害賠償請求権については、妻被控訴人岸本信子がその二分の一、子の被控訴人岸本勲及び同泉紀代美が各四分の一を相続することになる。

三  以上の次第で、被控訴人らの請求は、別紙一覧表記載の範囲(遅延損害金の起算日は、訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな同表遅延損害金発生日欄記載の年月日)でこれを正当として認容し、その余はこれを失当として棄却すべきであり、本件控訴は、理由がないからこれを棄却し、本件附帯控訴は、一部理由があるからこれに基づき原判決を変更することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官露木靖郎 裁判官小林正明 裁判官渡邉了造)

別紙

一覧表

一審原告氏名

金額

遅延損害金発生日

田中 昭夫

八〇万円

昭和五七年六月三日

長岡 和男

八〇万円

同右

阿曽 健一

八〇万円

同右

岸本 定雄

八〇万円

同右

松田 一成

八〇万円

同右

紺藤 義雄

八〇万円

同右

山本  馨

八〇万円

同右

中村 柳治

八〇万円

同右

土井 慶一

八〇万円

同右

大下 静雄

八〇万円

同右

下村 繁人

八〇万円

同右

原田 敏幸

八〇万円

同右

福井 善光

六〇万円

同右

野村 孝利

八〇万円

同右

木本万壽夫

六〇万円

同右

空岡 義夫

八〇万円

同右

境 百合人

六〇万円

同右

佐々木 悟

八〇万円

同右

尾崎 清登

八〇万円

同右

瀧村 史郎

八〇万円

同右

田代  淳

八〇万円

同右

林  文雄

八〇万円

同右

角谷 茂也

八〇万円

同右

雑賀  矢

八〇万円

同右

中野  実

八〇万円

同右

岩目地泰孝

六〇万円

同右

中村  進

六〇万円

同右

小田 正司

六〇万円

同右

豊嶋 信行

六〇万円

同右

峰永 宏正

六〇万円

同右

藤田 龍雄こと

藤田 龍男

六〇万円

同右

池本 喬治

六〇万円

同右

加藤  正

六〇万円

同右

鹿嶋 正美

六〇万円

同右

袈裟丸實好

六〇万円

同右

中島 清一

四〇万円

昭和六一年七月二五日

千羽 幸夫

四〇万円

同右

山本  賢

四〇万円

同右

井上 敬治

四〇万円

同右

山田 昭治

四〇万円

同右

豊島 幸行

四〇万円

同右

田村 健治

四〇万円

同右

奥村 勝利

四〇万円

同右

私鉄中国地方労働組合

サンデン交通支部

五〇万円

昭和五七年六月三日

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